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書名 アンコール遺跡を楽しむ
著者 波田野直樹(はたの・なおき)
連合出版刊、 A5判、288ページ、定価 2500円(消費税別)
ISBN4-89772-183-0
 

第 I 章

アンコールへの誘い

第 II 章

アンコール遺跡群をめぐる

第 III 章

アンコール地域外にある主要遺跡

終 章

もっと遠くへ

アンコールへの旅を通じて得た著者のアンコール遺跡の楽しみ方を語るアンコール遺跡群の入門書です。 平成15年4月4日発売。 お求めは全国主要書店へ。ネッ上からは・・・
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池澤夏樹氏による書評
 

プロローグ アンコールからの手紙 (本書より)
本は届きましたか?
ぼくがアンコールについて初めて書いた本の感想はいかがでしょうか。これまで歩いたアンコールのことを、感じたままに書きました。
ところで、今、シェムリアップに来ています。軽い昼食を済ませ、オールドマーケットの近くのインターネットカフェでこのメールを書いています。雨期の最中の今は観光客も少なくて、のんびりしたいい季節です。滝のような雨が降ったあとの、遺跡の森の美しさを一度体験してはいかがですか。
アンコールという土地について、文章で表現するのはとても歯がゆい気分です。旅行について話したり聞いたりするのはぼくも大好きですが、行くこと体験することに勝るものはありません。でも少しだけアンコールについて書いてみましょう。
またアンコールに行くというと、昔の友人たちからは、そんなに遺跡が好きだったのかと奇異な目で見られるし、新しい知人からはアンコール遺跡の好きな人と思われているに違いありません。しかし本当のところ、ぼくはアンコールを研究して何十年というわけではもちろんないし、遺跡マニアですらないのです。ではなぜアンコールに行くのか?ある本質的な存在がそこにあって、それに出会えるから行くのだと、別の自分が言っています。では、ある本質とは何か。美しいもの、きれいなもの、きれいな色、きれいな空、さわやかな風、爽快なスコール、巨大な建築物、その光と影、その精緻な細部。他にふたつとないオリジナルな存在がそこに詰まっているのです。そういう環境の中で自分が生き生きとしていて、周囲の刺激をいっぱいに受けていることが感じられます。それらは必ずしも遺跡一般の属性ではなくて、カンボジアの自然と、そこにあるクメール遺跡の属性です。そしてアンコールの外には、いまだに極め付きの悪路と過酷な旅が待ち受けています。それらもまた、ぞっとするくらい誘惑的なカンボジアの魅力の源泉です。
このように書くうち、自分が求めている旅の目的が、突き詰めれば「美しいもの」と「冒険」であるということに気づきます。アンコールには美しさがあり、アンコールの外のカンボジアには冒険があります。ただし、アンコールは間違いなく美しいけれど、「冒険」の方はささやかなものです。少し前までの治安の悪さは急速に改善されつつあり、山奥にバイクで入ってゆくのにも、さして不安を感じません。ただし地雷はとても怖い。にもにもかかわらず、気がつくと遺跡の周囲を歩き回り、すこしでもいい角度からの写真を求めて藪の中に踏み込む自分がいます。
アンコールは知的な冒険の土地でもあります。アンコールに密集する遺跡群はいまだに解明されていない多くの「謎」に満ちています。素人が恣意的な謎解きをするにはアンコールの「謎」はあまりにも巨大ですが、そのごく一部にせよ見て歩いて、感じた疑問を文献を読むことで解決していく過程はこれまで経験したことがないくらいスリリングです。わたし自身の例でいえば、個々の寺院遺跡への興味から始まって、今現在は都市遺跡に強い興味を感じています。
バイクタクシーとそのドライバーの存在も、カンボジアの魅力の一部分を占めています。バイクには風と感動があるのです。更にドライバーたちの素直さと誠実さが旅をすばらしいものにしてくれます。気心の知れたドライバーとふたりで町を出る時の気分は、まちがいなく騎馬行による「冒険への出発」です。ぼくたちのバイクは100CCのロバであり、ぼくはサンチョ・パンサの後席に乗るドン・キホーテということになります。
ともあれ、あと十五分もすると、ぼくのサンチョである馴染みのドライバーのソイが午後の部の騎馬行にやってきます。相も変わらず遺跡を巡る短い旅が、あとわずかで始まります。ではまた。

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