障害を持つ人のためのアンコール案内

最近では、さまざまな障害を持つひとたちも海外旅行を楽しんでいる。では障害を持つ人にとって、アンコールの旅はどのようなものだろうか。
旅先としてのアンコールは、バリヤフリーとは程遠い。アンコール遺跡の特徴としての、石を敷き詰めた長い参道や、急で踏み込みの浅い階段は、行動を大きく制約する。障害の部位や状況にもよるけれども、障害を持つ人のアンコール訪問について、主に車椅子での観光をイメージしつついくつかの方法を考えてみる。

車窓から楽しむ

アンコール地域にはいくつかの定番コースがある。

アンコール・ワット、アンコール・トム
小回りコース
大回りコース


これらは車で回ることができ、車窓から遺跡を鑑賞できる。これらのルート順に、車に乗ったままでも楽しめるかどうかを考えてみる。

アンコール・ワット、アンコール・トム
アンコール・ワットは外から眺めて楽しむには限界がある遺跡だ。外からは中心部に立つ尖塔や回廊がほとんど見えない。環濠の風景はそれなりに美しいが「車窓観光」には向かない。
アンコール・トムではその南門、バイヨン(車で周回できる)、王宮前広場、象のテラス、ライ王のテラスなどが車から楽しめる。
王宮、プレア・パリライは見えない。クリアン、プレア・ピトゥ、プラサート・スール・プラットは遠景のみ。

小回りコース
「車窓観光」には向くのはチャウサイ・テヴォーダ、トマノン(すぐ近くへは行けない)、スピアン・トマ(道路脇なので詳しく観察できる)、タ・ケオ、スラ・スラン、プラサート・クラヴァン。
一方、タ・プロームとバンテアイ・クデイは周壁しか見えない。

大回りコース
東メボン、プレ・ループは道路わきにあり、車からも鑑賞可能だ。
プレア・カンは西側及び北側の参道しか見えない(東側参道も行くことはできる)。
ネアック・ポアンはまったく見えない。タ・ソムは一番外側の塔門だけ見える。

その他
バンテアイ・スレイは外観だけで、その核心である精緻なレリーフは見ることができない。
ロリュオス遺跡群では、ロレイは見えない。バコンは遠景のみ。プレア・コーも近づくことはできない。
プノム・バケンは象を使えば、料金はかなり高いが、上まで行ける。ただしそこからの眺望はよくないし夕日も見られない。夕日の見られる山頂寺院の頂までは更に急な階段を登ることになる。

車椅子での遺跡訪問

車椅子でアンコール遺跡を訪れるのはかなり大変だ。
長くてでこぼこの参道、急な階段、回廊や塔門内にある高い敷居など、車椅子での移動を妨げるものが遺跡に多く存在する。そのため、介助者は最低でも2名必要だと思われる。場所によっては、3名以上要る。多くの場合、車椅子ごと持ち上げて急な階段を上り下りすることになる。

暗く急な石段(アンコール・ワット十字回廊)

旅行者にとって幸いなことに、まだ人件費の安いカンボジアでは、人の手配は安価で可能だ。介助者の手配はシェムリアップのホテルなどを通じて依頼できる(そのような体制があるという意味ではない。ゲストとして自分の希望することを詳しく説明し、希望を述べればホテル側がベストを尽くすだろうという意味である)。
ただしこの場合、介助者は単なる「人手」であり、介助についての知識は期待できないと考えたほうがいいだろう。
以下に、車椅子で訪れるのが比較的楽だと思われる遺跡を検討してみた。
いずれもでこぼこの石を敷き詰めた長い参道とたくさんの階段に苦労するだろうが、行く価値は十分にある。気をつけて行動しつつ、アンコールを楽しんでほしい。

アンコール・ワット、アンコール・トム
アンコール・ワットの場合、車椅子で行動可能なのは西参道〜第一回廊〜第二回廊まで。まず、環濠を渡る西参道に上るとき数段、西塔門に上るとき数段、降りるとき数段の石段がある。
西塔門左右の「象の門」を通れば階段を上がらずに内部に入れるが、内部の参道に戻るときにやはり階段を数段上ることになる。
その先の参道の終点まではとても遠い。
終点から十字型テラスに上る階段はきつくて危険である。十分に注意してほしい。ここは最低3人の介助者が必要だろう。近くにいる人にも介助を頼んだらどうだろうか。
その先の第一回廊に入るときにも数段の階段がある。
第一回廊内は比較的移動しやすいが、四隅にある塔の付近では30センチ以上のしきい(木の板で覆われて階段状になっている)があるので持ち上げる必要がある。こういう「しきい」は遺跡の回廊内ではよく見かける。
第一回廊から第二回廊へは、十字回廊から入るのがベストだが、階段は高く急で暗いので、最低3人の介助者が必要だ。ここが一番きついだろう。ここでも近所の人に手助けしてもらうようにしたい。
第二回廊内はなにもないので、回廊に囲まれた内側を見て歩くことになる。
その上の第三回廊への階段は、とても急で高度差もあるのであきらめてほしい。また第二回廊から十字回廊への下りはくれぐれも気をつけたい。


第三回廊への急な石段(アンコール・ワット)

アンコール・トムの南門はまったく問題ない。
バイヨンの場合、第一回廊の状況はアンコール・ワットの回廊と同様だが、こちらは規模が小さいので多少は楽だ。やはり「しきい」が高いので手間がかかる。
上部の周回テラスからは有名な観世音菩薩の大きな顔面が間近にみられるが、そこへは相当急な階段があるのであきらめたほうがいい。もしどうしても行きたいなら、4人以上の介助者とロープによる確保が必要だろう。
王宮へは正面を避けて北側の入口からが入りやすい。ピミアナカスは急なので上ることはできない。
象のテラス、ライ王のテラスは間近に見ることができる。
プラサート・スール・プラットへは接近しにくい。クリアンも同様だ。
プレア・パリライへは道が悪いが行くことはできる。あたりの森の雰囲気はすばらしい。プレア・ピトゥも行くことは可能だが、遺跡に上るのは難しい。

小回りコース
チャウサイ・テヴォーダ、トマノン、スピアン・トマ、スラ・スラン、プラサート・クラヴァンなどは道路わきにあり、行くのは楽だ。
タ・プロームとバンテアイ・クデイは大きな遺跡なので介助が大変でくたびれるだろうが、行くことはできる。急で高い階段はない。
タ・ケウは階段が急なので無理だ。

大回りコース
プレア・カンは広大なので介助者が苦労するだろうが、平面型に展開されていてさほど危険はない。


こんな通路を抜けていく(プレア・カン)

ネアック・ポアンは問題ない。
タ・ソムも大丈夫だろう。プレ・ループ、東メボンはピラミッド型寺院であり、階段が急なので外から見るのが無難だ。

その他
バンテアイ・スレイは小さい遺跡なので楽だ。介助者2名でOKだろう。おすすめする。

ロリュオス遺跡群では、ロレイは一ヶ所に急な階段があるが、問題となるのはここだけだ。バコンはピラミッド寺院のすぐ下までなら可能。プレア・コーはすぐそばまで行ける。
 

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