[追悼]
荒樋久雄さん

荒樋久雄さんは平成16年10月15日、交通事故によって帰らぬ人となった。
荒樋さんはカンボジアのクメール遺跡であるバンテアイ・クデイ遺跡の研究によって昨年、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学より工学博士号を取得し、本年4月より上智大学講師として教壇に立ち始めた。
筆者と荒樋さんとの関わりは時間的に短く、また関わりの深さも氏の多くの友人知人諸氏に遠く及ばないが、筆者にとって荒樋さんは得がたい友であるとともに多くの示唆と刺激を受けた先輩でもあった。
荒樋さんがシェムリアップに駐在中、共にバンテアイ・クデイ遺跡を訪ね、遺跡の現場でレクチャーを受けたことがある。 その内容は博士論文で対象とした遺跡内のさまざまな痕跡についての彼の考察が中心だったが、そのときの遺跡内を庭のように歩き回りながら喜々として自己の研究を語る姿が脳裏に刻まれている。
アンコールの遺跡のみならず、荒樋さんはその生涯を通じてあまねく建築という存在を愛しめでたひとであった。 日本の木造建築、ヨーロッパの教会建築など、文化と時代を越えて建築を味わい、また探求した。深夜までシェムリアップ川の川岸の屋台でカンボジアの地酒を味わいながら談笑した思いでも、もはや再現することは叶わない。
研究者としての助走を終え、今後書かれるであろう幾多の考察や実践の入口に立ったところでの突然の知らせにことばを失う。その将来を思えばあまりにも無残である。早世してはならない俊英が逝った。
荒樋さんの魂よ安かれ。今後アンコールを訪れるたびにあなたのことをまちがいなく思い出しつつバンテアイ・クデイの回廊を歩くであろう。

写真:
シェムリアップ
の上智大学アジア人材養成研究センター
(旧上智大学アンコール研修所)
での荒樋さん(2003年)

2004年10月18日 波田野直樹
 

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